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初めてのヤージーレース

 ぼくの村では大体どこの家でもヤージーを飼っている。ヤージーは山羊と羊の中間みたいなやつだ。だからみんなヤージーと呼んでいる。
 春になってヤージーの毛が生え変わるころに、それまでの冬の毛を取るのが面白い。ヤージーは薄茶色をしてるけど、首のところだけ黒くて丸い輪を付けているように見える。その黒い輪のあたりから手でめくっていくと、くるりと上手く毛が取れるんだ。
 ぼくの村はヤージーの毛で有名だ。でも最近は外国の人たちが村のどこかに大きなヤージー牧場を作って商売を始るうわさがあるとじいちゃんが言っていた。ヤージーは村の人たちの宝だ。そんなことは本当に止めて欲しい。
 それはともかく、村が一番盛り上がるのは、何と言っても年に一度のヤージー祭りだ。この日は朝から笛やら太鼓やらにぎやかな音楽があちこちから聞こえてくる。出店もたくさんあって、いつもは見ることの出来ない珍しい品物や食べ物も並ぶし、サーカスもやってくる。
 そして祭りの最大の山場がヤージーレースだ。ヤージーレースと言えばヤージーが走ると普通は思うかも知れないけれど、ぼくの村がすごいのは、人間がヤージーをかついで走るんだ。こんなのはめったにないと思う。目立とうとして二匹いっぺんにかついで走る人もいるんだ。一番になった選手はもちろん村のヒーローであこがれの的だ。
 このヤージーレースにとうとうぼくも出ることに決めた。レースは十二才から出場出来るんだけれど、もう少し大きくなってから参加する子が多い。でもぼくは一回でもたくさんレースに出たいから今年からにしたんだ。
 さてヤージー祭りの当日、いつもだったら友だちや家族と屋台を回ったり、ヤージーレースを見たりして楽しいだけだったけど、今回はもう自分が生まれて初めてレースに出るから、朝から何だかずっとそわそわしてた。ごはんも何食べたか良くおぼえていない。
 夕方近くになって村中にサイレンの音がでっかく鳴ると、みんなスタート地点の広場にぞろぞろと集まってくる。ぼくら出場する選手たちは少し前からもう準備していて、今か今かと待っている。まわりの選手は大人が多くて強そうだ。当たり前だけど自分が一番年下で、こんなんなら来年出れば良かったかと少し弱気になった。でも今さら引き返せない。
 そんな風に思っていたら、係の人がスタートラインに着くよう言いにきた。とうとう始まる。広場は観客でいっぱいだ。父さんや母さんも見にきてるはずだけど、ぼくはドキドキしていて探すどこじゃなかった。
 バァン!ピストルが鳴った。ぼくはヤージーをかつぎ上げてかけだそうとした。あー、こんな時に限って、ヤージーが暴れてうまく持てない。一番小さくて大人しそうなのを選んだのに、きっとピストルの音に驚いたんだと思う。やっとぼくが走り出した時には、もうみんなだいぶ前を走っているのが見えた。ぼくは必死になって追いかけた。
 広場を出ると村のまわりに広がる草原にまっしぐら。草原にはところどころに旗が立っていてコースが出来ている。いつも遊んでいる場所なのに、ヤージーを持ちながらだとこんなにアップダウンがきつかったのかと思った。それでもしばらく走っていたら、やっと前に追いつくことが出来てホッとした。他の人たちもやっぱり時々ヤージーが逃げたりして遅れたみたいだった。
 コースも真ん中ぐらいになると、あんなにいた観客の人も少なくなるけれど、ここが一番のがんばり時だ。足も疲れてきたけど、何よりも肩や手が痛い。子供のヤージーでもけっこう重いんだ。あー、手が痛い、ヤージーを下ろして休みたいなぁ、そう思っていると少し前の選手が休んでいるのが見えた。それなら、とぼくも少し休んだら後ろから抜かされてしまった。急いでヤージーをかついでまた走り出した。
 もう本当に限界だなぁ、もう前に進んでいるのかも分からなくなってきた頃、給水地点にやってきた。でもこれで水が飲めると思ったら大間違いで、これはヤージーに飲ますために出来ているんだ。高い台の上に水が入った長いおけみたいのが置いてあって、ヤージーを持ち上げて飲ますんだ。ぼくは一度ヤージーを下ろして息を整えてから、えいっと勢いよくヤージーを持ち上げた。ヤージーはがぶがぶ飲んだよ。それからわざとヤージーをわさわさゆすってやって水をバシャバシャこぼすんだ。それでぼくもやっと水が飲めた。
 水を飲んだら少し力が回復した気がした。ヤージーも落ち着いて静かになったし、lリズムが出てきてまだまだ走れるという感じがしてきた。だんだんまた観客が増えてきて、ゴールが近いのが分かった。たまに歩いてる選手もいて、ぼくは遅いながらも抜かしていったよ。
 草原から村にもどって、ゴールはもうすぐた。ぼくはちょっと余裕が出てきて、このままいけばビリにはならないと思いながら走った。そしてちょうど通りの角を曲がった時だった。急にぼくの名前を呼ぶ声が聞こえたんだ。そっちの方を見たら、同じクラスの女の子たちがニ、三人で声をそろえてぼくを応援してたんだ。びっくりしたの何の。こんなこと初めてだし。だいたい一度も話したことない子たちなのに、どうしてだろう。ちょっとうれしくなったけど、ビリの方だからもっと速かったらいいのになと思って、あまりそっちの方は見ないで走り過ぎた。
 ゴールが近い。広場が見えた。観客もいっぱい見える。きっと父さんや母さんや弟たちも待ってるんだろうな。今度は本当にうれしくなってきた。
 もう倒れそうだったけど、最後の力をふりしぼって走った。そしてついにゴール。やったー!ぼくとヤージーは噴水池に飛び込んだ。ヤージーレースのゴールは噴水池なんだよ。これもぼくの村ならではと思うんだ。ゴールと同時にヤージーを洗ってあげるんだ。ぼくも汗やどろでベタベタだったからすごく気持ちよかったなぁ。疲れも吹っ飛ぶようだった。
 順位はやっぱり後ろの方だったけど、父さんもうれしそうな顔をしてたし、ぼくも誇らしい気分でいっぱいだった。やっぱりレースに出場してよかったと思った。
 家に帰るとじいちゃんに報告して、それからみんなでごちそうを食べた。 後はばったりと夢も見ないでぐっすり眠った。きっとこの日のことはずっと忘れないと思う。
 また来年も絶対にヤージーレースに出よう。

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