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D氏の絵

 引越しが近付くと、新しい生活への希望と少しの不安、そして慣れ親しんだ住まいや人々、町との別れを惜しむ気持ち、それらがないまぜとなる。しかしいざ引越しの日を迎えれば、もうすることは決まった。てきぱきと荷物を積み込み、新天地へいざ出発だ。
 ところが彼等ときたらどうだろう。今日は引越しだというのに、皆浮かない顔をしている。僅かばかりの荷物をリヤカーに載せ、何処に行くというのだろう。少年ばかり六人、ある者は俯き、ある者は天を仰ぎ、ある者は手で顔を覆い、ある者は前の少年にもたれかかり、ある者は諦め悟るように、そしてある者は積みきれなかった荷物を風呂敷に包んで背負い、かつ泥棒のように頬かむりまでして呆然と立ち尽くす。そう、彼等は行くあてもなく、永遠に彷徨うのだ。
 彼等の影は後ろに長く伸び、背後には濃青緑色の空間が広がっている。そしてなぜか彼等の前をサギともアヒルともつかない鳥が二羽歩いている。黒猫のマークの付いたリヤカーからは布団と枕、ブラウン管のテレビが覗いている。どこからか射した光が、布団の一部を黄色く浮かび上がらせているのが印象的だ。
 

 そんな「引越し」と題するD氏の絵を持っている。私はこれから何処へ、何度引越そうとも、この絵と共に行くつもりだ。
 

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金の葉

  ずっとずっと昔の話です。

  ハナはまだ子供ですが、自分専用の小さな畑を持っていました。彼女は畑が大好きで、学校が休みの日にはもう朝早くから畑に出かけるのです。
  その日もハナはそわそわと朝食の最中でした。その時すぐ窓の外に何かきらきらと光る物がひらひらと落ちるのが見えました。
「あらっ、お母さん、あれ何でしょう?」と言うと外に飛び出しました。手に取ると金色に輝く葉っぱでした。
「こんな綺麗なのが落ちてたの。」
「あら、美しいわね。」とお母さんが言うと、
「ああ、それは幸運の葉というものかも知れない。」と今度はお父さんが話し始めました。
「それを拾った者は、お茶にして飲むと一生幸せに過ごせるという言い伝えがあるんだ。」
  ハナはその葉っぱでお茶を入れて飲んで見ました。あなたがその場にいたら、彼女の体がうっすら金色に光るのが見えたかも知れません。
  すると今度は窓の外で沢山のカラスがにわかに騒ぎ出したのです。ハナは畑に蒔いた豆が気になりました。急いで朝食を終えて畑に向かいました。

  畑は湖の向こうにあります。ハナは小さな船に乗り勢い良く漕ぎ出しました。湖は凪いでいて、空の太陽や遠くの山と、湖に映った太陽や山のどちらが本物か見分けが付かない位です。

  畑に着くと、案の定、ハナの背丈よりも大きいナメクジが、土の中から豆を掘り出し食べているところでした。ナメクジは彼女に気が付くと
「美味しい豆をどうもありがとう。お礼に良い所に連れて行ってやろう。」と言いました。ハナは断ろうと思いましたが、ぬめぬめと気持ちの悪い背中に彼女を乗せ、ナメクジはもう歩き出していたのです。

  ハナは森の中にいました。まわりは見たことの無い木ばかりで、ナメクジの姿もすでにありませんでした。太陽もずいぶん高くなっていました。
  その時、彼女は二人の小さな男の子に出会いました。男の子達はどこからどこまで瓜二つで、着ている服も同じでした。ただ違うのは帽子の赤と青の色だけです。それでも時々二人の男の子は帽子を交換するので、どちらがどちらだか分からなくなるのです。
「ここはどこでしょう?道に迷ってしまったわ。」とハナが聞くと、
「そんなこと気にしなくて大丈夫だよ。いっしょに遊んでよ。」と声を合わせて言います。
  ハナは二人と遊びました。  お腹がすくと、持ってきたお弁当をみんなで分けて食べました。みんなで食べるお弁当はとても美味しかったのです。
やがて太陽も傾きかけてオレンジ色に変わり、風も心なし冷たくなって来たころ、赤い帽子の子が言いました。
「お母さん、ぼくはあなたの子供です。」
  青い帽子の子も言いました。
「お母さん、ぼくはあなたの子供です。」
  そう言われるとハナは確かにそんな気がして、二人をぎゅっと抱きしめました。するとなぜかハナは自分の姿が大きくなっていくような気がしました。ところが彼女が大きくなったのではなくて、二人の男の子が小さくなったのでした。二人はどんどん小さくなって、さよならという微かな声を残して消えてしまいました。

  ハナは一人森に取り残されましたが、あたりを見回すと、金色の道が見えました。幸運の葉のお茶を飲んだおかげで、体から金の粉が落ち、それがナメクジの通ったあとに付いていたのです。金の道をたどって無事に家に帰ることが出来ました。

  その夜のことです。ハナが寝ていると、ちょうどその上あたりに赤と青の光の玉が突然現れました。ハナは目を覚まして光の玉を見ましたが、少しも怖くありませんでした。それが何だかすぐに分かったからです。
  二つの光の玉は窓の方へ移動して、そのまま通り抜けて真っ暗な空へ高く高く飛んで行きました。そして赤と青の兄弟星になったのです。それから毎晩ハナは寝る前に夜空の兄弟星に必ずおやすみを言ったそうです。

  今でもその赤い星と青い星を見ることが出来ますが、時々赤と青の星の位置が入れ替わることは余り知られていません。そして二つの星のすぐそばで輝いている金色の星のことはもっと知られていないのです。

Jへの手紙

         一

何年ぶりにJの夢を見ただろう。
夢の中で私は絵を描いていた。上手くいかない箇所があり、同じところを何度も描き直していた。
するとJが現れ、ネガティブなところにばかり焦点を合わせる、と言った。
私はなるほどと思った。
それからJは、愛は残酷なもの、という意味のことを言った。
夢はこれで終わってしまったが、私はこの言葉を聞いて、はっと気が付いた。最近Jは夢にも現れなくなっていたが、実はずっと黙って私を見守っていたのではないだろうか。

私はJに手紙を書きたくなった。Jに関する私の思い出をただ読んでもらうだけでいい。返事は要らない。ただ感謝を伝えたかった。

         ニ

私は十三歳だった。
春が来て、クラス替えがあった。既にJを意識していた私は、同じクラスになったことを喜んだ。さらに幸運なことに、私の席はJの隣に決まった。
普通、男女の机は隣同士ぴったり付けないで、少し隙間を空けるというのが暗黙の了解だった。そんな微妙な年頃なのだ。おまけに当時の私はニキビが酷く、そうするのが女子生徒に対する礼儀だと思っていた。
ところが、Jは机を付けた。私は内心少し動揺したが、Jの真意を測りかねて机を離した。
しばらくして気が付くと、また机がくっついていた。しかし、またしても私は机を離した。それからは机が付くことはなかった。

         ・

私はJの顔が見たかった。
しかし、隣の人を理由もなく見るのは難しい。Jが気になって仕方がなかったが、横目でJの気配を探っては、こちらを見ている雰囲気を感じると、緊張して決してJの方を見ることは出来なかった。Jの視線が私から外れたと思った時に、チラッとJを盗み見るというのが限界だった。
席が隣同士だったのは短い間だった。
その後も私は授業中でも、休み時間でも、Jの方を何気なく向いては、気付かれないように見ていた。

         ・

私はJとまともに話したことがない。席が隣の時も話し掛けることなど出来なかった。
Jは私のことをどう思っているのだろう。もし好意的に思っているなら、何かその確証が欲しかったが、それは得られなかった。
私には話し掛ける勇気がなかった。

         ・ 

クラブ活動とは別に、週に一度、何種類かの文化・スポーツ分野から選べる、レクリエーション的な授業があった。
私はテニスを選んだ。Jがテニス部だったからだ。予想通りJも同じ授業を選んだ。
そこでJとは何の接触もなかったが、姿が見られるだけで幸せだった。

         ・

クラスの催しでフォークダンスを踊る機会があった。しかし生徒たちは誰も手を繋がないのだ。繋いだ振りだけして、手はぎりぎりで触れない。形だけのダンスだ。
次々と相手が替わっていき、とうとうJと踊る番になった。私は思い切って、Jの手に触れようとした。触れたいと思った。しかし私の指がJの手に触れると、すぐにJは手を離した。
やはり私は好かれていないのだと思った。

         ・
林間学校に行った。
宿泊施設では五、六人のグループに分かれて部屋が割り当てられた。なぜか私のグループの部屋を、ある女子のグループが見に来た。その中にJもいた。
私はJを見たが、Jは少しも私の方を見なかった。

         ・
一度だけ嬉しいことがあった。
誰か男子生徒と話している時に、相手が何か難癖を付けてきた。するとどこで聞いていたのか、Jが現れて一言、二言私に助け舟を出してくれたのである。その男子が気まずそうな顔をしたのを覚えている。Jは少し笑みを浮かべながらすぐに立ち去った。
もしかしたらJは私を思ってくれているのだろうか。今なら、ありがとうと言えるのに、何も言えず仕舞いだった。

         ・

Jと同じクラスになって一年近く経った頃、私は遠い西の町へ引っ越すことになった。
まだそのことを誰にも言わない、ある午後に、家の電話が鳴った。近くに居た私が受話器を取ると、女子生徒からで、私に勉強を教えて欲しいと言う電話だった。名前は名乗らなかった。
私の頭の中では、相手は誰であるかや、引っ越しのことなどか浮かび、何と返事をしたら良いか暫く黙っていたが、やっと何か言おうと思うと、電話の奥からもう一人他の女子の声がしたので、また躊躇してしまい、沈黙が長過ぎたのか、そのまま電話は切れた。 
Jであったのか、全く別の少女からだったのか、永遠に分からないままだ。

         ・

終業式の日、私が転校することが先生からクラスに告げられた。先生は生徒たちに私宛の寄せ書きを書くように言った。家に帰ってJが書いた部分を読んだ。
いつまでも忘れないで下さい、とあった。
私はこの意味が分からなかった。Jのことを忘れない、なのか、それともこのクラスや学校のことをなのか、確信が持てなかった。

         ・
あの終業式の日を最後に、私はJ、あなたの前に二度と現れなかったと思う。ただ私の方は少し違かったのです。

                  三
         
引っ越してから一年半ほど過ぎた夏に、休みを利用して親戚の家に泊まりに行った。そこから前に住んでいた家は電車ですぐのところなので、滞在中に家の近くを歩いて見ようと思っていたのだ。
元いた町の駅で降りると、反対方向からもちょうと電車が入って来るところだった。私はホームを歩き始めた。すると目に飛び込んで来たのは、なんと紛れもないJだった。電車を待つJの横顔。思わず声を掛けようとした瞬間、隣に同じクラスだった女子生徒の姿が見えた。彼女は時々私に嫌味を言う人間で、とても苦手だった。
結局、私は何も言わずに、そして向こうもこちらに気が付くこともなく、すぐに二人は私とは反対の電車に乗り去っていった。    
その後、気を取り直して町を歩いていると、偶然元同級生の男子に出会った。彼の提案で、仲の良かったもう一人の同級生の家に行くことになった。
三人で話しているうちに、誰かがJの家に行かないか、と言い出した。私はJの家を知りたかった。しかし、今さっきJが電車で出掛けたのを見ているので、行かないとだけさらりと言ったが、内心どういうことか分からなかった。
なぜJの家に。Jについて誰にも話したことはないのに。
引っ越し先から私が先生に出した葉書のことも話題に上った。教室の後ろに置いて皆に見せたらしい。葉書には私の住所も書いてある。Jも見たかも知れないが、一通も郵便が来なかったということは、やはりJは私に対して何も思っていなかったのだろうか。

         ・

Jの写真を一枚だけ持っている。クラスの集合写真だ。
私は時折それを眺めたが、Jの顔は米粒くらいしかなかった。
         
                  ・

更に時は流れ、私は二十三歳になっていた。
その数年前に、大学に入るため前に住んでいた同じ町に戻ったが、元の家からは少し離れた場所だった。
Jのことはいつも頭の隅にあったが、彼女の家も知らなかったし、電話番号はクラスの連絡網に書いてあるのは知っていたが、電話を掛ける勇気はなかった。
それがある時、電話帳で住所を調べることを思い付いた。なぜこんな簡単なことに気が付かなかったろう。住所はあっけなく分かった。
私はその頃、ある人が付き合いのきっかけは一枚の暑中見舞いだったと言うのをどこかで読んでいたので、淡い期待を込めてJに手描きの絵葉書を送って見た。
返事はなかった。
               
         ・
諦めが付かない私は、暫くしてから自転車でJの家を探しに行くことにした。家は容易に見付かった。
外から眺めるだけだったが、何度目かに行った時に、Jが家の前の道路に居るのが見えた。私は自転車でゆっくりと近付き、顔を確認した。Jだ。すぐ横を通り過ぎた。彼女は私に気が付かない。Jはニ、三歳の子供と遊んでいるところだった。
私は途端に全てを理解して、これで完全に終わったと思った。

         ・

後日改めてJの家を見ると、前からある表札の隣に、違う姓のそれが掲げられていた。

         四

 お元気ですか。
 長い間しばしば、J、あなたの夢を見ました。夢の中のあなたは、いつもあの頃の少女のまま。
 夢であなたに会う喜び。眼が覚めてからのやるせなさ。いつまで私はあなたの夢を見るのだろう。
 しかし、ここ数年夢からあなたが消え、漸くあなたのことを忘れかけていた、つい先日、あなたはまた夢に現れたのです。
 その夢で気が付いたのは、実は私があなたを思っていたのではなく、あなたが私を思ってくれていたのだと言うことです。
 そんなはずはない、おかしなことを言うと思うでしょう。でも私にはそれが真実なのだと分かったのです。
 だから私はあなたに、ありがとうと言いたくて筆をとりました。

ここまで書いて、Jはこれを読んでどう思うか考えた。もう私のことは忘れているかも知れない。幸せな生活を送っている彼女の心に、余計なさざ波を立てるかも知れない。いや、終業式の日から三十年近くも経った今になって、こんな手紙を寄こす私にあきれ返るに違いない。どちらにしろ、私の自己満足だ。
手紙は出さないことにした。
         

         五

私がJを初めて見たのは、十三歳の冬のある日だったと思う。
家の前で運動靴を洗っている時に、女友達と二人で通り掛かったのだった。一人は私と同じクラスで、テニス部に入っていた。二人ともラケットを持っていたから、Jもテニス部員なのが分かった。
その同じクラスの女子生徒は、通り過ぎながら、私の方を一瞥して軽蔑するような笑みを浮かべ、Jに何か話し掛けた。するとなぜかJが私を弁護するかのように、それでも自分で靴を洗うのは偉いのではと言うのが、微かに聞こえたのである。
ほんの一、二分の出来事だった。
これがJの最初の記憶である。     
      
         

底で

 ここに来てからまだ日が浅いというのに、こうしていると、もう長い間ずっとここで過ごして来たような心持がする。暗く、ほとんど日の光も入らないが、そうかといって空気が澱んでいる訳でもない。暑くも寒くもない。なにより、とても静かだ。じっとしていれば、ただ平和に時が過ぎていくばかりである。
 しかし残念ながら、そうしていられるだけの境地には程遠いようだ。だからこそ、こんな文を書いるのだろう。いつかこの病が癒えるのを夢見ながら。

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