引越しが近付くと、新しい生活への希望と少しの不安、そして慣れ親しんだ住まいや人々、町との別れを惜しむ気持ち、それらがないまぜとなる。しかしいざ引越しの日を迎えれば、もうすることは決まった。てきぱきと荷物を積み込み、新天地へいざ出発だ。
ところが彼等ときたらどうだろう。今日は引越しだというのに、皆浮かない顔をしている。僅かばかりの荷物をリヤカーに載せ、何処に行くというのだろう。少年ばかり六人、ある者は俯き、ある者は天を仰ぎ、ある者は手で顔を覆い、ある者は前の少年にもたれかかり、ある者は諦め悟るように、そしてある者は積みきれなかった荷物を風呂敷に包んで背負い、かつ泥棒のように頬かむりまでして呆然と立ち尽くす。そう、彼等は行くあてもなく、永遠に彷徨うのだ。
彼等の影は後ろに長く伸び、背後には濃青緑色の空間が広がっている。そしてなぜか彼等の前をサギともアヒルともつかない鳥が二羽歩いている。黒猫のマークの付いたリヤカーからは布団と枕、ブラウン管のテレビが覗いている。どこからか射した光が、布団の一部を黄色く浮かび上がらせているのが印象的だ。
そんな「引越し」と題するD氏の絵を持っている。私はこれから何処へ、何度引越そうとも、この絵と共に行くつもりだ。