ずっとずっと昔の話です。
ハナはまだ子供ですが、自分専用の小さな畑を持っていました。彼女は畑が大好きで、学校が休みの日にはもう朝早くから畑に出かけるのです。
その日もハナはそわそわと朝食の最中でした。その時すぐ窓の外に何かきらきらと光る物がひらひらと落ちるのが見えました。
「あらっ、お母さん、あれ何でしょう?」と言うと外に飛び出しました。手に取ると金色に輝く葉っぱでした。
「こんな綺麗なのが落ちてたの。」
「あら、美しいわね。」とお母さんが言うと、
「ああ、それは幸運の葉というものかも知れない。」と今度はお父さんが話し始めました。
「それを拾った者は、お茶にして飲むと一生幸せに過ごせるという言い伝えがあるんだ。」
ハナはその葉っぱでお茶を入れて飲んで見ました。あなたがその場にいたら、彼女の体がうっすら金色に光るのが見えたかも知れません。
すると今度は窓の外で沢山のカラスがにわかに騒ぎ出したのです。ハナは畑に蒔いた豆が気になりました。急いで朝食を終えて畑に向かいました。
畑は湖の向こうにあります。ハナは小さな船に乗り勢い良く漕ぎ出しました。湖は凪いでいて、空の太陽や遠くの山と、湖に映った太陽や山のどちらが本物か見分けが付かない位です。
畑に着くと、案の定、ハナの背丈よりも大きいナメクジが、土の中から豆を掘り出し食べているところでした。ナメクジは彼女に気が付くと
「美味しい豆をどうもありがとう。お礼に良い所に連れて行ってやろう。」と言いました。ハナは断ろうと思いましたが、ぬめぬめと気持ちの悪い背中に彼女を乗せ、ナメクジはもう歩き出していたのです。
ハナは森の中にいました。まわりは見たことの無い木ばかりで、ナメクジの姿もすでにありませんでした。太陽もずいぶん高くなっていました。
その時、彼女は二人の小さな男の子に出会いました。男の子達はどこからどこまで瓜二つで、着ている服も同じでした。ただ違うのは帽子の赤と青の色だけです。それでも時々二人の男の子は帽子を交換するので、どちらがどちらだか分からなくなるのです。
「ここはどこでしょう?道に迷ってしまったわ。」とハナが聞くと、
「そんなこと気にしなくて大丈夫だよ。いっしょに遊んでよ。」と声を合わせて言います。
ハナは二人と遊びました。 お腹がすくと、持ってきたお弁当をみんなで分けて食べました。みんなで食べるお弁当はとても美味しかったのです。
やがて太陽も傾きかけてオレンジ色に変わり、風も心なし冷たくなって来たころ、赤い帽子の子が言いました。
「お母さん、ぼくはあなたの子供です。」
青い帽子の子も言いました。
「お母さん、ぼくはあなたの子供です。」
そう言われるとハナは確かにそんな気がして、二人をぎゅっと抱きしめました。するとなぜかハナは自分の姿が大きくなっていくような気がしました。ところが彼女が大きくなったのではなくて、二人の男の子が小さくなったのでした。二人はどんどん小さくなって、さよならという微かな声を残して消えてしまいました。
ハナは一人森に取り残されましたが、あたりを見回すと、金色の道が見えました。幸運の葉のお茶を飲んだおかげで、体から金の粉が落ち、それがナメクジの通ったあとに付いていたのです。金の道をたどって無事に家に帰ることが出来ました。
その夜のことです。ハナが寝ていると、ちょうどその上あたりに赤と青の光の玉が突然現れました。ハナは目を覚まして光の玉を見ましたが、少しも怖くありませんでした。それが何だかすぐに分かったからです。
二つの光の玉は窓の方へ移動して、そのまま通り抜けて真っ暗な空へ高く高く飛んで行きました。そして赤と青の兄弟星になったのです。それから毎晩ハナは寝る前に夜空の兄弟星に必ずおやすみを言ったそうです。
今でもその赤い星と青い星を見ることが出来ますが、時々赤と青の星の位置が入れ替わることは余り知られていません。そして二つの星のすぐそばで輝いている金色の星のことはもっと知られていないのです。