ある夕方、健一は学校から帰る途中だった。なぜか横断歩道の真ん中で、作業服を着た男が通せんぼをするように仁王立ちしている。信号が青になると、健一は男の横をスッと胸を張って通り過ぎた。
その直後、健一は自分の背後に何かを感じた。何か柔らかい感触。歩く度に彼は背中に柔らかいものが当たるのを感じた。彼の後ろに身体を密着させて女が歩いていたのである。健一からは女の姿は分からなかったが、モデルのような身体を想像した。
しばらくすると、健一は女と自転車に乗っていた。夢見心地の彼は、どちらが前に乗っているのか、後ろに乗っているのかも判然としなかった。ただ相変わらず女の身体を感じていた。
そしてぼんやりしたまま、もしかしたらこの人とやれるかも知れない、という考えが頭に浮かんだ。しかしそれと同時に昨晩自慰したことを思い出した。上手くいかないかもしれない。そして思わず健一は、
「実は昨日オナニーしたんだ。」と口走ってしまった。女は無言のままだった。
辺りはすっかり暗くなり、田んぼが広がる中を二人が乗った自転車が音も無く進む。すると暗闇に薄っすらと白く浮かぶ建物が見えてきた。健一は学校の校舎のようなその建物の脇に植込みを見付けると、あの蔭が良いと思った。彼はずっと事に及べそうな場所はないかと目で探していたのだった。
自転車はその建物の敷地に吸い込まれるように入って行く。そこは果たして、とある高校であった。自転車を降りた健一は初めて女を見た。制服姿の女子高生だった。そこへ男子生徒と女子生徒が横を通りかかった。彼女は二人に声を掛け、健一の方を軽く指差したので、健一は仕方なく会釈した。
彼等が行ってしまうと、漸く健一はまじまじと目の前の少女を見ることが出来た。中肉中背、白い足が艶かしいが、特別にスタイルが良い訳ではない。少し擦れたような、醒めた眼が青白い顔から鋭く覗いている。勉強も得意そうには見えない。童貞を失うのはもうちょっと可愛らしいタイプの子の方がなぁ、でもせっかくのチャンスだから良いか、などと健一が考えていると、突然少女は、
「ホテル行く?」と言った。
不意を突かれた健一は少なからず動揺した。余りに直截的な言葉だったし、第一そんなお金は持っていない。彼はずっとそこら辺の茂みでしようと思っていたのだから。
「もう今日は遅いから、今度映画でも見に行かない?」
そう苦し紛れに答えると、途端に少女は若い男の姿に変わってしまった。小学校時代の旧友に似た顔をしていた。健一はがっかりすると同時に少しホッとしながら、その男を相手に映画の題名を挙げ始めた。